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パリ五輪の熱戦が続いている。一方で、微妙な判定に対する批判がやまない。
柔道男子60キロ級の永山竜樹は準々決勝のフランシスコ・ガリゴス(スペイン)戦で絞め技に耐え、「待て」がかかった後も継続されて意識を失った。
バスケット男子の日本は強豪フランスに終了間際までリードしたが、河村勇輝が不可解なファウルを取られ、フリースローで同点に追いつかれて延長の末に敗れた。
いずれも試合後、相手選手や審判を標的に、批判や中傷のコメントが殺到した。日本語によるものも含まれた。いずれも勝敗に直結する判定だっただけに悔しさは分かる。批判も否定はしない。競技の成長に不可欠な要素である。ただし個人に向けた中傷は、全く別だ。
永山はX(旧ツイッター)に「お互い必死に戦った結果なので、誹謗(ひぼう)中傷は控えていただきたい。審判の方も判断の難しい状況だった」と記し、ガリゴスとのツーショットとともに「私たちは柔道ファミリーです」と書き込んだ。河村も「レフェリーが全て。言い訳はできない」と語った。一番悔しい思いをしたはずの、選手本人らの潔さに感銘を受ける。
ネット上を飛び交う罵詈(ばり)雑言は再録をとまどうほど残酷で、鋭利にとがり、人の心を傷つける。柔道女子57キロ級で優勝した出口クリスタ(カナダ)も中傷の標的となり、「他人が悲しくなるような言葉の矢をわざわざ放たなくてもいいんじゃないでしょうか」と発信した。
52キロ級の阿部詩は敗戦後の大号泣に非難が集中し、「情けない姿を見せてしまい申し訳ありませんでした」と謝罪した。これを受けて男子66キロ級優勝の兄の一二三は「情けなくなんかない」「心の底から詩のことを誇りに思う」と書き込んだ。
どうして選手らが、ここまで苦しまなくてはならないのか。国際オリンピック委員会(IOC)や各国選手団もネット上の中傷対策に取り組んでいるが、決め手を欠く。
匿名の暗闇に隠れて人の心を刺すことで自己満足を得ようとする醜悪な行為は、いずれ自らの精神もむしばむだろう。五輪以外でも、ネット上の誹謗による痛ましい事件は、後を絶たない。いいかげん、こんな卑劣な悪習はやめにしないか。
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2024年8月2日付産経新聞【主張】を転載しています